前回の「タイトル1つあたり何億円?“コスパが良いクラブ”TOP5を発表」の記事では、移籍金の使い方が上手と言えるクラブを紹介した。その記事の最後にお伝えしたように、今回はその逆で「移籍金コスパが悪いクラブ」について本記事では取り上げる。「コスパが良いクラブ」ではドイツのFCバイエルン・ミュンヘンが、国内での圧倒的な強さと、国際試合でも他の国のメガクラブに引けを取らない実力から、移籍金コスパ第1位となった。では、コスパが悪い第1位はどのクラブだったのであろうか。非常に気になるところである。
(text by Tate Masa)
過去5シーズンにおけるタイトルの“コスパ”を調査
前回の「移籍金のコスパが良かったクラブTOP5」に引き続き、今回は「移籍金のコスパが悪かったクラブWORST5」を調査し発表する。調査するのは、ヨーロッパの5大リーグ(イングランド・スペイン・ドイツ・フランス・イタリア)に所属するクラブ。2017-18から2021-22シーズンの5年間においてのデータを用いる。5シーズン間に支払った移籍金の総額(ローン移籍にて支払った金額含む)を同期間で獲得したタイトル数で割ることで、1つのタイトルあたりにかけた移籍金を算出し、1位から5位までを決め、発表する。なお、タイトルとしてのカウントに大会の大小は考えないものとする(UEFAチャンピオンズリーグでも、国内カップ戦でも、同じ1カウント)。
さて、どのクラブが過去5年間で最も移籍金コスパが悪かったのであろうか。ここでWORST5に入ってしまったクラブはお金の使い方が下手だということが言えてしまうだろう。
・移籍金総額:〇〇ユーロ
・タイトル獲得数:〇〇回
■(獲得タイトル名)
→タイトル1つあたりの移籍金費用:〇〇ユーロ
※調査に使用したサイト:https://www.transfermarkt.jp
第5位:RBライプツィヒ(ドイツ)
・移籍金総額:3億8,125万ユーロ
・タイトル獲得数:1回
■カップ戦(DFBポカール):21-22
→タイトル1つあたりの移籍金費用:3億8,125万ユーロ(約544億円1000万円)
第5位となったのはドイツのRBライプツィヒだった。ブンデスリーガではFCバイエルン・ミュンヘンが圧倒的な強さを見せており、なかなか国内でのタイトルを獲得するのが難しい状況であるのは確かだ。そんな中でも、21-22シーズンにカップ戦のDFBポカールのタイトルを獲得し、この調査期間でのタイトル獲得数は1回となった。大手飲料メーカーをスポンサーが経営するこのチームは、国内外から有望な若手選手を発掘し、同スポンサーチームのネットワークにて多くの選手を集めているため、その移籍費用も多くなっている。しかし、このチームで活躍し、ビッグクラブからの引き抜きがあった際には、獲得にかかった費用よりも大きな移籍金を手にしているケースが多いため、実際の収支としては赤字は少なくなっているように思える。
ただ、今回の調査においては、獲得にかけた費用に対して、タイトル獲得が1回のみだったため、第5位となってしまった。
第4位:SSCナポリ(イタリア)
・移籍金総額:4億4317万ユーロ
・タイトル獲得数:1回
■カップ戦(コッパ・イタリア):19-20
→タイトル1つあたりの移籍金費用:4億4317万ユーロ(約632億4000万円)
第4位となったのはイタリアのナポリだった。調査期間の5年間の高額移籍としては、20-21シーズンにフランスのLOSCリールからナイジェリア代表FWヴィクター・オシムヘンを獲得した際の7,500万ユーロや、19-20シーズンにオランダのPSVアイントホーフェンからメキシコ代表FWのイルビング・ロサノを獲得した際の4,500万ユーロがあった。セリエAでは、ユベントスFCやインテル・ミラノ、ACミランなど、多くの強豪ライバルクラブがあり、タイトル獲得が困難であるため、獲得タイトルとしては、19-20シーズンのカップ戦、コッパ・イタリアの1回のみとなっている。ただ、ここ数年はほとんどのシーズンでUEFAチャンピオンズリーグなどの国際コンペティションには出場しており、実力のあるクラブであることは確かである。
国内のリーグ戦でタイトルを獲得するのが非常に厳しく、カップ戦のタイトルのみとなり、今回は第4位となってしまった。
第3位:セビージャFC(スペイン)
・移籍金総額:4億6,208万ユーロ
・タイトル獲得数:1回
■UEFAヨーロッパリーグ:19-20
→タイトル1つあたりの移籍金費用:4億6,208万ユーロ(約659億5000万円)
第3位となったのはスペインのセビージャだった。スペインのラ・リーガといえば、レアル・マドリードとFCバルセロナが2大巨頭として君臨しており、アトレティコ・デ・マドリードがそのすぐ後をついていく図式が通年である。他にも現在日本代表MF久保建英が所属するレアル・ソシエダや、ビジャレアルCF、レアル・ベティスなどの強豪も所属しているため、このリーグを制覇するのは至難の業である。高額な移籍金を費やしての選手獲得は少ないが、選手の獲得数自体が多いため、トータルでかかった移籍費用が大きくなっている印象である。
調査期間で獲得したタイトルとしては、19-20シーズンのUEFAヨーロッパリーグのタイトルを決勝にてインテルに3-2で勝利して獲得している。今回の調査期間外だが、13-14、14-15、15-16シーズンの3年連続でヨーロッパリーグを制覇しており、セビージャはヨーロッパリーグキラーという印象もある。しかし、今回は第3位という結果となってしまった。
第2位:ASローマ(イタリア)
・移籍金総額:5億7,145万ユーロ
・タイトル獲得数:1回
■UEFAヨーロッパカンファレンスリーグ:21-22
→タイトル1つあたりの移籍金費用:5億7,145万ユーロ(約815億5000万円)
第2位となったのはイタリアのローマだった。第4位のナポリと同様に、セリエAには多くの強豪がひしめいており、リーグ戦を制覇するのは非常に困難である。調査期間の移籍の中で高額と言えるのは、18-19シーズンに同じイタリアのサンプドリアからチェコ代表FWパトリック・シック(現在はバイエル・レバークーゼン所属)獲得時の4,200万ユーロや、21-22シーズンにチェルシーFCからイングランド代表FWタミー・エイブラハム獲得時の4,000万ユーロがあった。他にも2,000万ユーロ代の移籍も多く、移籍金総額が大きくなっている。
タイトル獲得数は1回だが、そのタイトルは21-22シーズンから新設された、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグであり、決勝にてオランダのフェイエノールトを1-0で破っての制覇であった。
ヨーロッパのタイトルを獲得することは出来ているが、5年間ではこのタイトル1回のみとなってしまい、今回は第2位となってしまった。
第1位:ACミラン(イタリア)
・移籍金総額:6億1,615万ユーロ
・タイトル獲得数:1回
■セリエA:21-22
→タイトル1つあたりの移籍金費用:6億1,615万ユーロ(約879億3000万円)
今回、不名誉と言ってしまっていい第1位となってしまったのは、イタリアのACミランだった。5年間で4,000万ユーロオーバーの移籍金をかけたのは、17-18シーズンにユベントスからイタリア代表DFレオナルド・ボヌッチ(現在はユベントスに所属)を獲得した際の4,200万ユーロのみであったが、約1,500万から4,000万ほどの移籍金をかけた獲得が多く、移籍金総額も多くなっている。今回のWORST5には、ACミラン、ローマ、ナポリと、セリエA所属のクラブが多くランクインしているが、これはセリエAの競争力が激しいことを意味しているであろう。また、ユベントスやインテル・ミラノがこの3チームよりも一歩先を行っていることも表している。
獲得タイトルは1回のみとなっているが、このタイトルは、21-22シーズンのリーグ戦のセリエAを制覇したものである。ここ数年リーグ戦のタイトルはユベントスやインテルに明け渡していたが、今後はACミランもリーグ優勝の争いに毎年食い込んで行けるかが注目である。
しかしながら、今回の調査においては、ACミランが移籍金コスパWORST1のクラブとなってしまった。
タイトルを獲得していない“本当にコスパの悪いクラブ”
上記移籍金コスパWORST5は、移籍金総額を獲得したタイトル数で割った計算方法にて算出したため、タイトルを1回でも獲得しているチームがランクイン対象となった。だが、今回の調査にて、多くの移籍金を投資したにも関わらず、タイトル獲得が0だったクラブも散見していた。その中でも3チームを紹介していく。こちらの方が、真のコスパが悪いクラブとも言えるであろう。
第3位:エバートンFC(イングランド)
移籍金総額:5億3,687万ユーロ(約766億2000万円)
まずは、イングランドのエバートンだ。プレミアリーグの放映権を中心とした大きな資金を元に17-18から21-22シーズンで獲得に2,000万ユーロ以上を費やして獲得した選手は18人もいた。もちろん競争が他の国よりも激しいプレミアリーグにおいて、エバートンがトロフィーを掲げる隙もなく、5シーズン間におけるタイトル獲得は無かった。挙句の果てには21-22シーズンには大不振に陥り、プレミアリーグでは最終的に16位となり降格は免れたものの、最終節まで残留争いの順位を彷徨う始末であった。
マージーサイドにおける最大のライバルであるリバプールFCと移籍の質を比較すると、エバトニアンは目を塞ぎたくなることであろう。
第2位:ASモナコ(フランス)
移籍金総額:5億6,645万ユーロ(約808億4000万円)
次に移籍金総額が多く、5年間のタイトルが0だったのは、フランスのモナコだった。現在は日本代表MFの南野拓実が今シーズンにリバプールから移籍したことでも知られているクラブである。フランスではパリ・サンジェルマンFCの1強時代がここ数年続いており、リーグ・アンを制覇するのは至難の業となっている。チャンスのあるカップ戦(クープ・ドゥ・フランス)においても、20-21シーズンに決勝まで進んだものの、PSGに敗れた。
18-19シーズンにPSGにフランス代表FWキリアン・エンバペを1億8,000万ユーロで放出した際の資金を元に多くの選手を獲得しているため、移籍金総額が大きくなっているのであろうが、タイトルの獲得が無かったため、もっと効果的な資金の使い方があったのではないかと言わざるを得ない状況である。
第1位:マンチェスター・ユナイテッドFC(イングランド)
移籍金総額:7億3,970万ユーロ(約1055億6000万円)
このクラブが真の移籍金コスパWORST1と言ってもいいのかもしれない。5年間でタイトル獲得がないクラブの中で、最も大きな移籍金総額だったのは、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドであった。17-18シーズンに8,470万ユーロを費やしエバートンからベルギー代表FWロメル・ルカク(現インテル所属)を、19-20シーズンに8,700万ユーロを費やしレスター・シティからイングランド代表DFハリー・マグワイアを、21-22シーズンに8,500万ユーロを費やしボルシア・ドルトムントからイングランド代表FWジェイドン・サンチョを、それぞれ獲得しており、ほぼ毎年大きな移籍金でのビッグディールを行っている。だが、熾烈な争いを強いられるプレミアリーグにおいて、優勝はおろか5年間でチャンピオンズリーグ出場圏外の順位となったのが2回と、鳴かず飛ばずであると言わざるを得ない。
監督交代も激しく、クラブがやりたいサッカーに軸が無いことも、ここ数年結果が出ていない原因であろう。今シーズンから監督に就任したエリック・テン・ハグはこの負の連鎖を断ち切ることが出来るのであろうか。
タイトル1つあたりの“コスパが悪いクラブ”WORST5のまとめ
今回のタイトル1つあたりのコスパが悪いクラブWORST5の結果は以下の通りとなった。
1位:ACミラン
2位:ローマ
3位:セビージャ
4位:ナポリ
5位:ライプツィヒ
※高額移籍金総額でタイトル獲得無しのWORST3クラブ
第1位:マンチェスター・ユナイテッド
第2位:モナコ
第3位:エバートン
国内に圧倒的な強さを誇るクラブが存在するリーグにおいては、そのリーグを制覇することは非常に難しい。そんな中でも、トロフィーを掲げるために、各クラブがしのぎを削り、有望な選手の獲得を目指している。だが、その獲得に費やした移籍金が効果的なものであったのか、それを測るために今回調査を実施した。
タイトルの獲得が全てではないと思われる方もいるかもしれないが、プロの世界では結果が全てであると言って良い。結果がしっかり伴う移籍の動きができ、実際に結果が出せるクラブこそが、真のビッグクラブと言えるだろう。