関塚隆のプロフィール
鹿島アントラーズ コーチ
清水エスパルス コーチ
川崎フロンターレ 監督…J2優勝
U-23日本代表 監督…ロンドン五輪ベスト4
ジュビロ磐田 監督
ジェフユナイテッド千葉・市原 監督
日本サッカー協会 技術委員長
「今最も勢いのある若手選手は誰か?」と尋ねられた際に、レアル・マドリードのブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールの名前が頭に浮かぶ読者も多いのではないだろうか。22歳ながら、すでにリーガ・エスパニョーラ、UEFAチャンピオンズリーグともに優勝を主力として経験。2021-22シーズンはCL決勝弾を含める公式戦22ゴール20アシストを記録し、“白い巨人”の中心選手として活躍しているヴィニシウスに対し、川崎フロンターレを筆頭に数多くのJリーグクラブを指揮し、ロンドン五輪では44年ぶりとなるベスト4進出を達成した関塚隆氏は「自チームで育て上げる成功事例」と見解を述べている。
現在、「WOWOW」で解説者を務める関塚隆氏は、主にリーガ・エスパニョーラとCL、ELの試合を担当しているが、その中で最も感銘を受けた選手がヴィニシウスだという。欧州制覇を含む三冠の原動力となったヴィニシウスの見事な成長曲線に注目している。
海外サッカーを解説している中で、一番目に留まった選手が、レアル・マドリードのヴィニシウス。デビュー当時は、ドリブルばかりでボールロストが多く、アシストやゴールもなかなか残せなくて、ベンゼマとの関係悪化もメディアで取り沙汰されていた。若さ故の独りよがりなプレーも目立ち、批判も少なくなかったので、おそらくヴィニシウスはレンタル移籍で放出されることになると当時は多くの人々が思っていただろう。ただ、レアルは彼を出さずに使い続けた。彼は、自チームで育て上げる成功事例と言えるだろう。
ヴィニシウスは加入当初から才能の片鱗を見せていたものの、当時はまだ決定力に課題があり、利己的なプレーも目立っていた。現地メディアでは、同僚であるフランス代表FWカリム・ベンゼマとの確執が大々的に取り沙汰されていたこともあり、不満分子として期限付き移籍で放出される可能性を連日にわたって報じられていた。しかし、レアルはヴィニシウスを自チームに留める方針を固めていた。
若い選手をローン移籍で武者修行させるというのは、現代において常套手段になっている。それでもレアルは、まだ未熟だったヴィニシウスを使い続けて、昨季に大ブレイクを果たした。即戦力ばかりを獲得して起用し続けるだけではない、クラブの辛抱強いプロジェクトが実を結んだ。レベルは全く違うが、私は彼を見ていて、川崎フロンターレ時代のジュニーニョを思い出した。すぐに結果が出なくても、出場機会・シュート機会を与え続ける。それがゴールやアシストという結果に結び付いていく。その積み重ねが、いまや世界最高峰のアタッカーに飛躍したヴィニシウスを生み出した。
レアルは2022年夏の移籍市場でPSGのフランス代表FWキリアン・ムバッペの獲得に迫っていたが、実現に至ることはなかった。次なるアタッカーの確保が予想されたが、最終的には大型補強に動くことはなかった。そこには、21歳のブラジル代表FWロドリゴの存在があると関塚隆氏は述べている。
今はレアルは、ロドリゴの成長に目を向けている。ムバッペの獲得がクラブにとって最善策だったのは確かだろう。それでも、ムバッペ獲得が失敗に終わって以降は、右ウイングの新戦力の確保に動くことはなかった。そこにはバルベルデへの信頼と、ロドリゴの成長を信じるというクラブの決断だろう。ヴィニシウスにしろロドリゴにしろ、リーガの中堅クラブにローンで出して、そこで成長させてからレンタルバックさせる方法ではなく、自チームで成長させる方法に力を入れ始めている。
近年、とりわけビッグクラブにおいては、出番の限られた若手選手に対して、期限付き移籍をさせることで出場機会をもたらし、そこで目に見える結果を残した選手をレンタルバックさせるという手法がスタンダードとなっている。一方、関塚隆氏はビッグクラブが自チームで育成することのメリットについて言及している。
生え抜きの選手、もしくは10代のうちに獲得した選手に関して、ローン移籍で武者修行させるのではなく、自チームで育てるメリットとして、1つは「勝者のメンタリティー」を学ばせることができる点だろう。レアルは国内大会と欧州大会で、毎年のように優勝を争うチーム。そのような環境で、勝ち続ける経験は、期限付き移籍ではなかなか積み上げられないものだ。勝ち続けることが求められているチームに在籍することは、メンタル面を鍛えるのに非常に有効だろう。バルセロナのペドリ・ガビ・ファティや、マンチェスター・シティのフォーデンにも同様のことが言える。
レアルは当時まだ心身共に未熟だったヴィニシウスをチームに留めて根気強く育て上げ、ワールドクラスのアタッカーへと飛躍させた。2022年の夏には、PSGがレアルの12倍もの年俸を条件にオファーを提示したが、ヴィニシウスは即答で固辞し、レアルとの新契約にサインしていた。
自チームで育て上げるメリットの2つ目は、クラブへの帰属意識。毎年のようにローンで色々なクラブを転々とした選手よりも、自分を信じてチャンスを与え続けてくれた選手の方が、帰属意識は間違いなく高まる。例えばプレミアリーグから巨額のオファーを提示されても、忠誠心が揺るがない可能性は高いだろう。ヴィニシウスは、レアルからの愛情を強く感じているだろうし、恩義も感じているはず。年俸を倍出されても、レアルを離れることはないはず。そういった長期的なプロジェクトを踏まえたら、レアルの判断は正しかったと言える。
2021-22シーズンに公式戦22ゴール20アシストを記録し、リーガ・エスパニョーラ、CLを含む三冠の立役者の1人となったヴィニシウス。加入当時はプレーにムラがあったヴィニシウスだが、レアルはレンタル移籍で武者修行させる道ではなく、自チームでチャンスを与えて成長を促す道を選択。結果的に、ヴィニシウスはいまや“白い巨人”にとって不可欠な中心選手にまで飛躍を遂げている。近年、若手選手に期限付き移籍をさせて経験値を積ませる手法は常套手段である一方、関塚隆氏はレアルほどのメガクラブが自チームで選手を育て上げることで、勝者のメンタリティーを植え付けることにも成功していると説いていた。
鹿島アントラーズ コーチ
清水エスパルス コーチ
川崎フロンターレ 監督…J2優勝
U-23日本代表 監督…ロンドン五輪ベスト4
ジュビロ磐田 監督
ジェフユナイテッド千葉・市原 監督
日本サッカー協会 技術委員長