近年、マンチェスター・シティとリバプールは、プレミアリーグに留まらず、全世界を席巻している。当然、両雄の直接対決は最高峰の頂上決戦となるわけだが、これまで数々のJクラブを指揮し、現在は東京ヴェルディに就任している城福浩氏はシティとリバプールの対戦を「スーパーハイラインの守り合い」と表現している。
マンCvsリバプールは「サイドの攻防戦が鍵だと互いに心得て臨んだ試合」
2018-19シーズンはシティが勝ち点「98」、リバプールは勝ち点「97」と異次元の優勝争いを繰り広げたのを皮切りに、2019-20シーズンはリバプールが勝ち点「99」で優勝、2020-21シーズンはシティが勝ち点「86」で優勝。今季も他チームの追随を許すことなく、頭ひとつ抜けた形で勝ち点1差で1,2位に君臨している。プレミアリーグを席巻しているチーム同士の直接対決は、今季の優勝を占う大一番として、世界中から注目を集めていた。そして、期待通り、むしろ期待値を凌駕するほどの熾烈なシーソーゲームとなったが、城福浩氏は、サイドの攻防がこの試合のテーマとなったと言及している。
この一戦は、プレスの掛け合い=スーパーハイラインの守り合いという展開になった。切り替えて前線から即座にプレッシングする、コンパクトさを保って中を消して潰すなど、中をやらせない堅さは互いに必須であり前提だった。だからこそ、裏のスペースの取り合い、サイドの攻防戦が鍵だと互いに心得て臨んだ試合になった。トレント・アレクサンダー=アーノルドがサイドの1対1を制した際に見せた気迫溢れるガッツポーズや、モハメド・サラーとサディオ・マネの帰陣する深さが、それを物語っていた。そのような背景の中で、ソリッドな展開のうちは、GKを含めた最終ラインから裏へのフィードのクオリティーとそれを引き出す動き出しが求められ、同時に裏をとられた際、サイドのクロスを含めた対応力が求められた。
マンCにハイプレス包囲網を攻略されたリバプール
後半は互いにチャンスを作り出すオープンな展開となった一方、前半に関してはシティがリバプールを押し込む時間が大半だった。リバプールの真骨頂は、ボールホルダーに対し、人数をかけて奪い切り、そのままゴール前まで一気に持っていく電光石火のショートカウンターだ。しかし、シティの選手たちは、複数人のプレッシングに対して苦し紛れに前線に蹴り込んで逃げず、パスで網をくぐり抜けるスキルと意識が高い。リバプールは包囲網をかいくぐられ、そのまま手薄となったスペースを突かれる危機に幾度となく直面していた。
ハイプレスからのショートカウンターは、前線で奪えてこそ。シティのパス回しのスキルが高く、奪い切れないケースが続くと、ハイラインを敷いているリバプールは一気にDFラインを戻されることになる。ファビーニョの脇を使われていたように見えたのは、サラーとマネがサイドを警戒しているが故に、シティのCBに対し、ジョーダン・ヘンダーソンとチアゴ・アルカンタラのインサイドハーフがプレッシングしにいくケースが多く、アンカーの横のスペースが空きがちになったため。シティの選手たちは、CBに対し相手の誰がプレスに来るのかきちんと見ている。
リバプールはシティのボールホルダーに厳しくプレッシングを仕掛けるが、シティ側はブラジル代表MFファビーニョの横のスペースを突く攻撃で数多くの決定機を生み出していた。対戦相手がシティだからこそとも言えるが、リバプールにとっては弱点をさらけ出されるような攻撃に苦しんだ。
マンCがリバプール対策で見せた可変式4-4-2システム
シティは守備時にデ・ブライネを最前線に据える4-4-2システムへ可変していた。リバプールの両サイドバックはなかなか縦パスを供給できないことでサイドハーフに位置取っていたサラーやマネもボールに絡む機会を増やせず、得意な形でのチャンスメイクに手こずっていた。リバプール対策を打ってきたシティの術中にはまってしまった格好となったが、城福氏は中盤におけるスキルのクオリティーが表面化したと述べている。
リバプールは、守備時のシティの4-4-2システムを崩すのに苦戦を強いられた。そのシステム自体に苦労したというより、中盤に要因がある。リバプールは両サイドが張り付くことで、シティの最終ラインを拡げて後手を踏ませたいところだったが、そのためには一瞬でも相手を中に絞らせ、中を警戒させなければならない。それには、中央のクオリティーが不可欠。デ・ブライネやポルトガル代表MFベルナルド・シウバがまさしく、世界トップクラスのクオリティーを備えたセントラルMF。一方で、リバプールが中盤に求めるのはクオリティーよりも機動力なので、ワールドクラスの集うシティを相手に、中を絞らせるほどのクオリティーが中盤に備わっていなかった点が少なからず影響として出ていたと思う。
リバプールに関しては、攻撃的な両サイドバックがチャンスメイクで中盤的な働きを担っている一方、中盤は徹底的なハイプレスとセカンドボールを奪取するハードワークが至上命令だ。それは、ヘンダーソンはもちろんのこと、技術力で頭ひとつ抜けるチアゴも例外ではない。一方、シティは中盤の全員が足元に長けており、スキルを駆使した状況打開が期待されている。それこそがまさにシティとリバプールにおける“強さの色合い”を分けていると言ってもいい。
マンCとリバプールでキーマンになった攻守の要
勝敗こそつかなかったものの、ユルゲン・クロップ監督が試合後に「ボクシングのようなゲームだった」と表現したように、息つく間も許さない、まさしく殴り合いを見せつけられた頂上決戦だったわけだが、城福氏にこの試合における両チームのキーマンを尋ねたところ、シティからは攻撃の要としてデ・ブライネ、リバプールからは守備の要としてオランダ代表DFフィルジル・ファン・ダイクを指名している。
やはりデ・ブライネとファン・ダイク。デ・ブライネは前半の先制点、後半の決定機を見てもわかるように、前に持ち出せる。特に前線のブロックにグッと入り込みながら相手DF陣の対応を冷静に確認し、絞りが堅ければパスを供給し、絞りが甘ければ自分の足を振り抜く。それを、この最高峰の試合のレベルで披露できる。あれだけ攻守に走っている中で、それは特別な能力と言える。一方、リバプールに関してはもっと失点、あるいはたくさんの決定機を作られてもおかしくない状況で、その一つ手前で防いでいたのがファン・ダイクだった。対人能力、クロスに対する強さ、最後の寄せに自信があるからこそ慌てない。次第に、相手はどうしてもファン・ダイクとは勝負しない形に持っていくようになる。
マンCvsリバプールのまとめ
今季のプレミアリーグの命運を分けるシティとリバプールの直接対決は2-2に終わったものの、現代サッカーの最先端とも言える「スーパーハイラインの守り合い」で白熱した攻防戦を演じた。シティは守備時に可変の4-4-2システムで対策し、リバプールはサラーとマネを深くまで帰陣させる徹底ぶりを見せ、サイドの制圧戦に見応えのある激闘となった。近年はシティとリバプールが国内のみならず世界で見ても世界1,2位を争うライバル同士と見なされているが、その評価を裏切らない最高峰の試合となったことは間違いないだろう。
※プレミアリーグが公表しているシティvsリバプールのスタッツはこちら。
城福浩のプロフィール
U-17日本代表 監督…AFC U-17選手権優勝
FC東京 監督…ナビスコ杯優勝
ヴァンフォーレ甲府 監督…J2優勝
サンフレッチェ広島 監督…J1リーグ2位
東京ヴェルディ 監督…2022年〜現在