リバプールの黄金期は終焉を迎えたーー。この事実と向き合わなければならない時が来たのだろう。リバプールサポーター歴18年の筆者にとっても、目を背けたい現実だ。しかし、時代の終わりというのは、いつかは訪れるもの。浮いては沈みを繰り返し、クラブは歴史を積み上げていく。この記事では、リバプールの黄金期が終焉を迎えたきっかけと、そこから再建していくための「改善策」を提案していく。
(text by Jofuku Tatsuya)
2022-23シーズン、リバプールは開幕3試合未勝利でスタートダッシュに失敗し、UEFAチャンピオンズリーグ開幕戦では、ナポリ相手に1-4の惨敗。得点力の低下、失点数の増加、単調な試合展開…。もはや、あらゆる面で崩壊状態にあるリバプールだが、まずは不振に陥った主な要因を挙げていく。
セネガル代表FWサディオ・マネの退団には触れないわけにはいかないだろう。攻守における無尽蔵なハードワーク、驚異的な決定力はもちろんのこと、昨季に関してはセンターFWのポジションでプレーする機会が増加し、得点を奪う9番のタスクと、中盤に下りてチャンスメイクする偽9番のタスクを同時にこなす、文字通り大黒柱の働きを担っていた。
現状のスカッドでは、新戦力のウルグアイ代表FWダルウィン・ヌニェスは生粋の9番タイプで偽9番の働きは期待できず、ブラジル代表FWロベルト・フィルミーノは偽9番の役割は健全だが、得点力に難を抱えている。ユルゲン・クロップ監督が目指すサッカーには、マネの存在は不可欠だったと思い知らされる新シーズンと言わざるをえないだろう。
マネの華麗な浮き球のパスからサラーがゴール
長年にわたってリバプールの“陰の立役者”として黄金期を支えてきたスポーツ・ディレクターのマイケル・エドワーズ氏が、昨季限りで退任。現在の主力の大半がエドワーズ氏の連れてきた逸材で、これまでも移籍市場で的確な新戦力の補強、現戦力の契約延長や売却に努めてきた。
後任としてジュリアン・ウォード氏が就任したが、ヌニェスに対し約142億円を支払い、独り立ちの初仕事でクラブ市場最高額を“あっさり”更新。交渉術にやや疑問符が残る形に。さらに、それ以降はチームで負傷者が続出するも、即戦力の確保に動くことはなく、懸念材料を抱えたまま臨んだシーズン開幕では、案の定、最悪の出だしを切ることになった。移籍市場最終日に慌ててブラジル代表MFアルトゥールをローン移籍で獲得したが、現地サポーターのSNSでは「今年の夏、ウォードは居眠りしてばかり」といった揶揄が飛び交い、早くも信用を失い始めている。
結果的に、エドワーズ氏の退任は、マネと同等、もしくはそれ以上の痛手となってしまった。
黄金期を迎えたリバプールは、30年ぶりにプレミアリーグ優勝、14年ぶりにCL制覇を果たした。一方、この数年間で、ほとんど主力メンバーの入れ替えがないのも特徴的だ。必然的に、選手の高齢化も進んでいる状況にある。
上記は、今季開幕戦フラム戦の先発イレブンだ。今年30歳を迎えるアリソンを含めると、30代は7人、28歳以上となると11人中9人となる。平均年齢は“ビッグ6”で最も高く、スーパーサブで投入されているMFジェームズ・ミルナーは36歳。スカッドの高齢化が顕著になってきている。
リバプールの試合を観戦している読者であれば、今季の戦いを見ていて、引っ掛かる部分は大概一致しているのではないだろうか。そう、インテンシティの欠落だ。リバプールのアイデンティティと言えば、連動したハイプレスとハイラインだが、今季はハイプレスが全くと言っていいほど機能しておらず、ただハイラインを敷いて自らリスクに飛び込んでいる状況にある。ハイプレスが機能しなければ、当然最終ラインや中盤からロングボール、スルーパスを放り込まれ、裏を取られる。それはすでに今季何度も見てきた光景だ。ハイプレスあってのハイラインにも関わらず、その前提条件が破綻しているのである。
なぜ今季のリバプールはインテンシティに乏しいのか?それは、昨季公式戦63試合を戦い抜いた事実を避けては通れないだろう。今年は12月にカタールW杯が控えていることから、例年より前倒しでシーズンが開幕した。言わば、昨季どのチームよりも遅いシーズン終了となったリバプールにとっては、非常に不利な立場にあったのは確かだ。世界で最も試合を消化し、最も休息を取れていないクラブがリバプール。それは心得ておくべき実情だろう。
最終ラインに関して、ファン・ダイクの動きが鈍い理由も、アーノルドがいつにも増して守備時に傍観してしまっている理由も、全てはただ偶発的に起きているわけではない。彼らも彼らで、自分たちの足が思うように動かないことを実感しているはずだ。負傷者が立て続けに離脱する野戦病院化も、昨季の代償と考えても不自然ではないはずだ。それだけに、今夏こそ積極的な補強が必要であったのだが…。
チームの礎となっていたマネとエドワーズ氏の退団。そして、スカッドが高齢化している中で、昨季最多となる公式戦63試合を消化し、休息を与えられていない中で負傷者が続出し、ピッチに立つ選手たちもインテンシティを発揮できずに苦しんでいる現状が、今季のリバプールの不振を招いていると記事の前半では総括した。
では、今後リバプールはどのように復調していくべきなのか?その改善案について、独自の見解を述べていく。
まず、どの選手からチーム構成を逆算するのか、という問題がある。これまでは、いかにサラーにフィニッシュまで持ち込ませるか、というチーム作りとなっていた。フィルミーノとマネが黒子となり(マネに関しては、自分でも得点を決め切る兼業を全うしていたが)、ここ数年間はサラーが得点を奪う役割を務めていたが、マネが去った今、そのバランスを保つことはできなくなった。サラーに、これまでのような得点力を期待するのは、正直難しいだろう。
なかなかゴールを積み上げられず、不調が囁かれているサラーだが、やはり走行量にしてもスプリントにしても、他の選手よりはまだコンディションが整っているように映る。サラー自身が不調なのではなく、現在のチームそのものにサラーが輝く土台がなくなっている、という表現が近いのではないだろうか。サラーは相手守備を引きつけた上でのアシストも得意としていることもあり、今後はチームにおけるサラーの役割が変わってくることも予想される。
そこで焦点が当てられるのは、約142億円で加入したヌニェスだ。決してテクニックに恵まれているわけではないが、試合の流れやペースに囚われない得点を生み出す、言わば“理不尽なゴールを奪える”ストライカーだ。わかりやすく表現するとすれば、荒削りのフェルナンド・トーレスといったところか。チームのパスワークに入り切れなかったり、前線で孤立してしまう場面はベンフィカ時代にも目立っていたが、何もないところから唐突にゴールを奪う。それが彼の特長なのだ。
重要となってくるのは、ヌニェスをお膳立てするサポート役の存在だ。トーレスのすぐ後ろにスティーブン・ジェラードが立っていたように、ヌニェスもラストパスを供給する選手が近くにいてこそ輝くタイプだ。今のリバプールには、相手陣地で体を張ってボールをキープし、そこからパスで状況を打開する中盤選手は不在だ。チアゴやアルトゥールにしても、低い位置からのゲームメイクを好み、どうしても前線との距離が離れてしまう。
しかし、だからといって最適なサポート役がチームにいないというわけではない。鍵を握るのは、フィルミーノだ。
これまで偽9番を務めてきたフィルミーノは、中盤に下がってボールを受け、そこから両ウイングに対してボールを配給する潤滑油のタスクを担ってきたが、近年はボックス内での仕事の物足りなさが指摘されている。一方、ヌニェスはボックス内でのデュエルに勝負強さを見せることができるが、中盤に下がってボールを捌くといった器用なプレーは苦手としている。つまり、互いに不足しているものを備え合っている関係性なのだ。
ようやく本題に入るのだが、ここで提案したいのが、システム変更だ。クロップ体制の元、長きにわたって4-3-3システムを採用し、前線3枚の連携で攻撃を生み出し、インサイドハーフはハイプレスとハードワークで相手の攻撃を摘み、ボールを奪い切ってカウンターの起点となる。そのように役割を明確に分担したスタイルで戦ってきた。
しかし、ルイス・ディアス、ヌニェス、サラーの3枚はいずれも、緻密な連携で状況を打開するタイプではなく、個の力で打開を試みるアタッカーだ。良し悪しは別にして、これまでの“フロント3”のような阿吽の呼吸で崩し切る攻撃とは、全く異質な3トップとなるのは仕方のないことだろう。
フィルミーノは年齢による衰えもあり、相手守備陣に圧力をかけられると、以前ほどボールキープや展開力を発揮することができなくなってしまった。しかし、自由に前さえ向ければ、9-0の圧勝を収めたボーンマス戦が示すように、状況を打開するクリエイティブなスキルは健在だ。
4-2-3-1システムでフィルミーノをトップ下に配置し、ヌニェスを最前線に置くことで、縦の関係性を構築する。ヌニェスにとってはフィルミーノからのスルーパスで裏を取る動き出しに集中しやすい環境となり、フィルミーノからしたら、ヌニェスが裏を取る動き出しを繰り返すことで、相手守備陣のラインが後退して間延びし、前を向いてプレーできるスペースを確保することができる。つまり、この2人の相性は、“新ホットライン”を確立する可能性を秘めているのだ。
フィルミーノはボーンマス戦で2ゴール3アシストを記録
利点は攻撃面だけではない。今季はインサイドハーフのところでプレッシングを掛け切れない場面が目立つことで、ファビーニョの両脇のスペースを突かれるケースが多発している。さすがのファビーニョも、広大な自陣のスペースを1人でカバーするのには限界がある。そこで、ダブルボランチにすることで、そのリスクも大幅に軽減することが可能となる。そうすることで、ファビーニョへの過度な依存度も減らすことができ、例えばヘンダーソンとチアゴのダブルボランチ、というローテーションを組み込むこともできるはずだ。
現在、守備面における最大の弱点がファビーニョ・アーノルド・ゴメスによる三角形の中間地点を突かれることだが、ダブルボランチにすることで、そのスペースのカバーも迅速に行うことができる。リバプールはアーノルドを敵陣のハーフスペースに配置する戦術を取り入れているが、それ故にカウンター時は右サイドバックのテリトリーを曝け出すことになり、失点を重ねてしまっている。アーノルドの長所を最大限に活かし、短所のリスクをなるべく抑えたいのであれば、その穴をカバーできる布陣にするべきだ。
リバプール不振の背景として、マネとエドワーズSDの退団、主力勢の高齢化、昨季の過密日程によるインテンシティの欠落と負傷者の増加などを取り上げた。サイクルの終焉はどのクラブにも訪れるもので、今まさにリバプールは次なる時代を築いていく再建のタイミングを迎えていると言える。そのための改善案として、4-2-3-1システムへの変更を打ち出し、ヌニェスとフィルミーノの縦の関係の構築、ダブルボランチによる自陣のカバーリングなどのメリットを独自の見解でまとめた。
リバプールサポーター歴18年の筆者にとっても、黄金期の終焉はいつかは訪れるものとわかっていつつ、いざその瞬間を迎えたら、胸にポッカリと穴が空いたような感覚だ。しかし、次なる新章の始まりと捉え、例え時間がかかったとしても、再びリバプールが立ち上がっていく姿を見届けたい。