近年、レスター・シティはプレミアリーグでビッグ6を脅かす存在として安定的な強さを示していた。しかし、2020-21シーズンに関しては、振るわない戦いが続き、トップ4争いに最後まで絡むことなく、8位で終えた。ブレンダン・ロジャース監督の元、確かな力を身につけてきたレスターが、思うようなシーズンを送ることができなった要因について、データを交えて紐解いていく。
(text by M.Yuri)
2015-16シーズン、優勝オッズ5000倍という驚異の数字をひっくり返して、プレミアリーグを制し、「ミラクル・レスター」としてサッカー界のみならず、世界を驚かせたレスター・シティFC。それまで2部を主戦場にしていたクラブは一躍ワールドワイドな存在となり、トップ6の牙城を崩すほどの力をつけた。
2016-17シーズンから3シーズンは主力の引き抜きなどもあって中位に留まっていたが、2019-20、2020-21シーズンでは最終節までCL圏内を争う好調ぶりをみせた。結局2季ともにCL圏外の5位でフィニッシュすることにはなったが、ロジャース監督のもと、「ミラクル」ではなく「実力」でプレミアリーグが誇る名門6チームの中に割って入ってみせたのである。
2度最終節で涙を飲んだCL圏内へ、三度目の正直を果たすべく望んだ2021-22シーズン。更なる補強をするなど、より盤石の体制を敷いて望んだロジャース政権三季目のレスターにはCL圏内への期待が高まっていた。しかし、現実は上手くいかなかった。序盤から波に乗れない時期が続き、CL圏内どころか中位以下の戦いが続いた。カンファレンスリーグ終了後の巻き返しも間に合わず、結局レスターは大陸大会圏外の8位フィニッシュとなってしまった。
今回はその原因について、データを交えながら分析していく。
上記は、負傷で欠場した試合の日付を記載したリストだが、負傷による大きな影響があった事が文面からでも窺えるだろう。
このアクシデントの中、ロジャース監督はローテーションを駆使して限られたメンバーでシーズンを戦った。その状況下で期待の生え抜きMFキアナン・デューズバリー=ホールや新戦力FWパトソン・ダカといった新戦力が躍動した一方、守備を支えていたエヴァンスや、強靭なフィジカルで中盤を支配していたエンディディ、そして名ストライカーヴァーディらが抜けて出来た穴は明らかに、新加入選手や控えメンバーが埋めるには大きすぎたのである。
当然、疲労管理といった努力で怪我は低減出来たのかもしれないが、この負傷離脱の多さはCL圏内を狙うチームの大きな誤算であり、足枷となってしまった。
昨季EL圏内に入ったことにより、欧州大会をシーズン最初から戦っていたレスター。ELは決勝トーナメント進出が有力視されていた中、3位で失意のグループリーグ敗退となったが、今季から新設されたカンファレンスリーグの決勝トーナメントへ参加することとなった。ロジャース監督がグループリーグ3位確定後の会見で「正直に言うと、この大会が何なのかも知らないんだ。」と発言してしまうような大会に「送り込まれた」訳だが、レスターはこの大会で準決勝まで勝ち進む。結局今季レスターは58試合を戦った。
イングランド勢でレスター以外に欧州大会の準決勝まで勝ち進んだのは、CLではリバプールとマンチェスターシティ、ELではウェストハム。当然以上の4チームは他のプレミアリーグのクラブより過密日程となる。その状況下で、前述の負傷離脱が重なったことも、レスターの体力を蝕んでいったといえよう。
負傷離脱・過密日程で苦しむチームでも、連勝していくことによって上昇気流に乗ることができ、好成績を残すことがある。しかしレスターはそうではなかった。リーグ戦の連勝は3月まで達成できず、大会を跨いだ連勝も少なかった。勝っては負け、もしくは引き分けて、また勝っては負けを繰り返すようでは乗れる上昇気流も乗ることが出来ない。
Daniel Storey氏もレビューでこの点に触れており、『10月から3月のリーグ戦績は「WLDLWDLWLWLDLDLW」と滑稽なものであり、この戦績で勢いを生むことは不可能だった』とコメントしている。思い返せば、今までのレスターの快進撃には「流れ」が必要不可欠であった。今季のレスターは、今まで掴んできた「流れ」にも見放されてしまったのだ。
前述した「流れ」に乗れなかった理由はもう一つある。「勝ち点の落とし方」である。
同じ「1-1」でも、「ATに追いついた1-1」と「ATに追いつかれた1-1」では、感情に大きな差があることは説明しなくても分かるだろう。今季のレスターは大事な場面でことごとく「ATに勝ち点を失う」側になってしまった。
ここに、終了間際に失点した主な試合を挙げる。
シーズンの行方・雰囲気を左右する1月・2月の中盤戦で、終盤の失点が頻発。これでは苦労して戦っていても疲労が蓄積されるだけである。
特に1/19のトッテナム戦は、1-0でカップ戦の雪辱を果たしたリバプール戦、FAカップのワトフォード戦と連勝し、復調をうかがわせる中で迎えていただけに、大きなダメージとなった。そして1/23のブライトン戦でも82分に失点。次のFAカップでは地元のライバルのノッティンガム・フォレストに1-4と大敗。次節のリバプール戦は0-2で敗戦。そして2/13のエバートン戦でも90+2分に失点と、好調とは真逆の期間を送ってしまったのである。
今季のレスターは、シーズンを通して、コーナーキックを含むセットプレーの守備が脆弱であった。セットプレーからの失点数は19とワースト1位タイであり、同じ失点数のクラブにはリーズ(17位)、またエバートン(16位)と、残留争いをしていたクラブの名前があがる。流れからの失点は32と順位相応な数字であることから、8位フィニッシュとなった大きな理由の一つとして議論されなければならないだろう。一向に改善されないディフェンスに、サポーターからは「コーナーキックを与えるくらいならPKを与えた方がいいよ」といった「ブラックジョーク」まで飛び出す始末である。
CKの失点により敗退することになったカンファレンスリーグ準決勝、2ndレグの試合後インタビューでロジャース監督は、いい試合をしていただけに「今季の弱点」による失点を防げなかったことを悔いていた。シーズンを通してマンマークやゾーンと、様々なCKへの守備を試していたというが、結局改善されることは無く、三度目の正直を狙うレスターにとって「致命傷」となってしまった。
サッカー解説者のベン・メイブリ―氏もシーズンの振り返りにおいて、期待を下回った原因としてこの「弱点」に触れている。
ヴァーディは2021-22シーズンで、2回負傷離脱する。一度目の欠場期間、エースを欠いたチームは不調に陥ってしまう(【勝ち点の落とし方】の項で特記した期間がこの欠場期間に含まれている)。
しかし、3/1のバーンリー戦で復帰すると、わずか18分間の出場ながら1ゴール1アシストの活躍をみせてエース復活を知らしめた。次のリーズ戦も勝利して今季初のリーグ連勝を飾ったレスターは、頼れるストライカーの帰還と共にいよいよ逆襲かと思われた。しかし、再びヴァーディはこの試合で膝を負傷。数週間の離脱(実際は当初の見通しから4月下旬まで延びた)と発表された。
二度目の離脱期間中レスターは勝てなかったわけではないが、ヴァーディが復帰して「さあここから」といったムードが形成されつつあったチームに、「ジェイミー・ヴァーディの再離脱」というアクシデントは、戦力的な面もそうだが、なによりチームのメンタル面に大きな打撃を与えた。
ここまで、2021-22シーズンのレスターをネガティブに振り返ってきたが、フットボールにおいて勝つために重要な得点は62得点と、不安定なシーズンを送ったチームとは思えない攻撃力を見せてリーグ5番目の得点数を記録している。シーズンを通して攻撃を牽引したマディソン、負傷離脱期間がありながらも得点を量産したヴァーディ、期待の点取り屋ダカと、オフェンスにおいては確実に相手の脅威となっていたのである。だからこそ今季の成績が「勿体なく」感じてしまう。
三度目の正直のCL圏内へ、期待値は上がっていただけに、欧州大会圏外という成績は満足いかない結果となってしまったが、それでも8位という成績はクラブの歴史から見れば過去4番目であり、プレミアのトップハーフ定着という困難極まりない目標を達成したのは称えるべきであろう。不運が重なれば二桁順位でも全くおかしくなかったシーズンを何とかまとめ上げる事が出来たとも評価できる。
レスターは今、高額な給料を原因とする財政問題を抱えていると報道されている。実際シュマイケルが移籍し、ティーレマンスやフォファナ、そしてマディソンら数多くの有力選手に興味が持たれている。2022-23シーズンの欧州大会を逃したことにより「草刈り場」の様相を呈し始めているレスターの歴史は、奇跡の2010年代から、新たな時代へ突入していくことになるだろう。