2022年度のバロンドールを受賞したのは、レアル・マドリードのフランス代表FWカリム・ベンゼマだった。文字通り“世界最高のフットボーラー”の肩書きにふさわしい大活躍を披露するシーズンを過ごしたわけだが、現在東京ヴェルディのヘッドコーチを務めている小倉勉氏は、ベンゼマを「Off The Ballの達人」と表現している。
ベンゼマの特長は足元の技術だけではない
2021-22シーズン、ベンゼマはリーガ・エスパニョーラとUEFAチャンピオンズリーグで得点王に輝き、レアルの三冠達成における立役者に。バロンドールの大本命とされていた中で、予想通りの受賞となった。
ベンゼマが類稀なる技術者だと感じさせられるのは、体のあらゆるところでボールコントロールが可能であるところ。足元だけじゃなくて、腿でも胸でも頭でも、どこでも自由自在にボールを操ることができる。そういった選手は、まさにこのサイトの名前でもある「Off The Ball」のプレーが比較的少ない傾向にある、しかし、ベンゼマに関しては、僕は彼を「Off The Ballの達人」と呼んでいる。
Off The Ballに「ベンゼマらしさが宿っている」
ベンゼマと言えば、ゴール前での落ち着いたシュートやポストプレーでのチャンスメイクなど、ボールが足元に収まった際に違いを生み出す器用な選手として知られているが、小倉勉氏はボールのないプレーにこそ“ベンゼマイズム”があると見解を述べている。
持ち味はテクニックだけでなく、ゴールやアシストを生み出す直前の動き出しが適切で、最善のポジショニングを模索しながら動いている。自分がボールを受ける動きだけではなく、味方を助ける動きを欠かさない中で、得点も奪うことができる。そういった選手は、世界で見ても多くは存在していない。もちろんボールのあるところのプレーも世界トップクラスだが、ボールのないところのプレーにこそ、ベンゼマらしさが宿っている。
ベンゼマ覚醒の背景にあるC・ロナウドの存在
ベンゼマがとりわけ際立っていたのは、CLの決勝トーナメントで対戦したPSG、チェルシー、マンチェスター・シティの優勝候補を相手に見せつけた驚異的な決定力。劣勢を強いられる展開でも、数少ないチャンスを確実に決め切る勝負強さに関しては、他の追随を許さなかった。ストライカーとして覚醒した背景には、C・ロナウドの存在があると言及している。
今の実績もさることながら、C・ロナウドがレアルに在籍していた当時も、非常に重要なキープレーヤーだった。C・ロナウドがあれだけ得点を量産できていたのは、ベンゼマが黒子になってサポートするチームプレーに徹することのできる選手だったからこそ。そして、ベンゼマの得点力や決定力が爆発的に伸びたのは、ゴールマシンのC・ロナウドを支えてきた経験も活きていると思う。ストライカーをお膳立てする立場から、今度は自分がストライカーとしてお膳立てされる立場になったわけだから、味方がどのタイミング、どのポジショニングだったらパスを出しやすいかなど、自分がやってきたからこそ熟知している。
ベンゼマとヴィニシウスが築く”世界最高のホットライン”
ベンゼマのバロンドール受賞に最も貢献したのが、ブラジル代表FWヴィニシウス・ジュニオールだろう。たった2人で相手守備網を打開するコンビネーションは、現時点で世界最高と言っても過言ではない。
相棒であるヴィニシウスにも触れないわけにはいかないだろう。一時は確執も取り沙汰されていたが、今では阿吽の呼吸でホットラインを形成している。かつてベンゼマがC・ロナウドを引き立たせていたように、今はヴィニシウスがベンゼマを引き立たせる関係性を築くことができている。あの2人からチーム構成を逆算できるのが今のレアルの強みだし、だからこそ数少ないチャンスを物にして勝ち切る算段がつけられる。
ベンゼマは世界中の選手にとって「最高のお手本」
ベンゼマは年齢の観点で言えば、キャリアの終盤に差し掛かるベテラン選手ではあるが、今がまさに全盛期と言える輝きを放っている。小倉勉氏は、ベンゼマこそ、世界中の若手選手にとっても、ベテラン選手にとっても、最上級のロールモデルになる存在だと指摘している。
ベンゼマは今年で35歳だが、明確な意識を持って取り組めば、何歳になっても成長できるし上手くなること、そして若い頃に培った地道な経験が違ったところで花開くこと。それらの最高のお手本になっているんじゃないかなと思う。もちろん才能がある選手なことに間違いはないが、メッシやムバッペといった“持って生まれた”タイプではない。彼が今の立場を築くことができたのは、彼がキャリアを通して積み上げてきたものの集大成なのではないだろうか。
“Off The Ball”の達人ベンゼマのまとめ
2022年度のバロンドールを、34歳という年齢で受賞したベンゼマ。爆発的な得点力と驚異的な決定力で世界最高の座を掴んだ一方、小倉勉氏は足元の技術だけでなく、Off The Ballのプレーにこそベンゼマらしさが宿っていると指摘している。かつてはC・ロナウドを支える黒子としてサポート役に徹していたが、その時代があったからこそ、ベンゼマはストライカーとして覚醒できたのかもしれない。相棒であるヴィニシウスとともに、今後もレアルをさらなる高みに導いていくことだろう。
※当記事のインタビューは2022年6月4日に実施したものです。
小倉勉のプロフィール
U-17日本代表 ヘッドコーチ… AFC U-17選手権優勝
日本代表 コーチ… 南アフリカW杯ベスト16
U-23日本代表 ヘッドコーチ…ロンドン五輪ベスト4
大宮アルディージャ 監督…J1残留
ヴァンフォーレ甲府 ヘッドコーチ…J2優勝
横浜F・マリノス SD…2017年〜2022年
東京ヴェルディ ヘッドコーチ…2022年〜現在