リバプールはユルゲン・クロップ体制の元、数々のタイトルを獲得し、世界トップクラスのクラブへと返り咲いた。黄金期を迎えたリバプールにとって、不可欠な礎となっていたのが、主将のイングランド代表MFジョーダン・ヘンダーソンと副将の元同代表MFジェームズ・ミルナーだ。数々のJクラブを指揮し、今季から東京ヴェルディに就任している城福浩氏は、ヘンダーソンとミルナーがチームに存在する重要性を、監督目線で言及している。
リバプールがクロップ体制で迎えた黄金期
リバプールは今季、低調なスタートを強いられる厳しいシーズンとなっている。しかし、クロップ監督が2015年に就任してから、的確にチームの土台を築き、2017年からチームパフォーマンスが飛躍的に向上。2019年には14年ぶりのUEFA チャンピオンズリーグ制覇、2020年には30年ぶりのプレミアリーグ優勝を達成。昨季はカラバオ杯とFA杯を制したことで、イングランドで獲得できる全てのタイトルを手にした。
リバプールは直近5年間、まさに黄金期と言える時期を過ごした。クロップが見事な手腕とマネジメント力で進めたチーム作り、そして、クロップの戦術に適した選手を揃えたフロントのバックアップが、リバプールを世界トップクラスのクラブへと伸し上げた。しかし、リバプールがこれほどまでに強靭となった背景を語るには、ヘンダーソンとミルナーの存在を避けては通れないだろう。
ヘンダーソンとミルナーが備える“デ・ブライネ級”の資質
長年にわたる低迷期を乗り越えて世界最高峰のクラブに復権したリバプールにとって、ヘンダーソンとミルナーは非常に重要な存在であると城福浩氏は語った。両者ともにテクニックやスピードを備えているわけではなく、得点能力に長けた存在でもないが、その存在意義は計り知れないほど大きいものだったと強調している。
クロップにとって幸運と言えたのは、就任したチームにヘンダーソンとミルナーがいたことだろう。あるいは、もしかしたらヘンダーソンとミルナーのような選手がいたからこそ、クロップはリバプールの就任を決心できたのかもしれない。彼らは正直、トップレベルの才能があるわけではない。しかし、特別なメンタリティーを備えている。それは、デ・ブライネの技術力や、ポグバの身体能力に引けを取らないくらい、重要な資質だ。
ヘンダーソンとミルナーの特長は「帰属意識の高さ」
ヘンダーソンやミルナーは、練習に全力で取り組み、オフシーズンでもコンディション調整に余念がないことで知られている。試合では常に周囲に声掛けし、緩んだミスでピンチを招いたチームメートを叱り飛ばす姿は日常茶飯事だ。城福浩氏は、そのタスクを自発的に担ってくれる存在は最大のサポートとなっていると見解を述べている。
ヘンダーソンとミルナーが特に素晴らしいのは、プロフェッショナルとはこうあるべきと自ら行動で示し続けているところだと思っている。あくまで想像の域を超えないが、トレーニングに向かう準備、トレーニング中の集中度、終了後のケア等々は日頃他の選手が目にするもの。刺激を受けて当然だろう。本来ならば引退が頭にチラついてきた年齢の選手は自分のために身体のケアはするものだが、彼らはクラブへの帰属意識も高い。リバプールのために何が出来るか、そのためにトレーニングから何をやるべきかを理解している2人が側にいるのはクロップも心強いはずだ。
イングランドのクラブでイングランド人が模範となる意味
また、リバプールというイングランドクラブで、ヘンダーソンやミルナーのようなイングランド人選手がチームの模範となっていることに、重要な意味合いがあると説いている。
リバプールにとって当事者意識や帰属意識を持っているのが、ヘンダーソンやミルナーのようなイングランド人であることも大きな意味がある。イングランドのクラブで、イングランド人選手がその役割を担っているのも重要。それはイングランドに限らず、他のリーグ、もちろん日本にも言えることだが、その国のチームで、その国の出身選手が当事者意識を持ってリーダーシップを発揮することで、その選手がチームの規律となる。彼は2人はあらゆる面で、リバプールの礎になっている。
ヘンダーソンとミルナーがチームメートにもたらす好影響
これまでキャプテンマークを巻いてきた選手や、百戦錬磨の経験値を備えた選手であれば、自発的にハードワークやチームプレーに取り組むことができる一方、キャリアをスタートさせて間もない若手選手などに関しては、自ら当事者意識や帰属意識を持つことはなかなか難しく、外国人選手であれば尚更だ。
世界最高峰のリーグには全世界から才能のある選手が集まる。しかし、その中にはポテンシャルは秘めているものの、心身ともにプレミアリーグで戦う準備ができていない、あるいはやり続けられない選手もいる。チーム作りは常に順風満帆なわけではない。むしろ難しい局面ばかりで、それをどう乗り越えていくかの連続。出身地や年齢、パーソナリティー、価値観だったり、様々なメンバーが共存するチームにおいて、シビアな場面でネガティブな空気に包まれる時間が多いのか、それともポジティブな空気に即座に変えていけるのか。それは正直、監督やスタッフだけで対処し切れるものではない。リーダーシップを持った選手が存在するかどうかは、そういった局面でこそ重要になる。そういう意味では、彼ら2人のように、常にファイティングポーズを取る姿勢、貪欲に勝利に向かう姿勢は、プレーそのものだけでなく、チームメートのマインドに絶大な好影響を及ぼしているはず。
ヘンダーソンとミルナーの役割を担っていた日本人は「小笠原満男」
ヘンダーソンやミルナーのような母国出身の選手が当事者意識と帰属意識を示して、選手たちの模範となることで、全体に規律が徹底され、強靭なチームが構築される。日本人であれば、元日本代表MF小笠原満男氏が、その最たる例であると言及した。
リバプールは、その辺りが結構うまく引き継がれている印象にある。少し前であれば、スティーブン・ジェラードがその役割を託されていた。彼は言葉ではなく、背中で語るような選手の印象だが、やはりイングランド人選手であったという要素も大きいと思っている。日本で言えば、小笠原満男。彼も寡黙な選手だったが、失点した際、チームに下を向かせないキャプテンシーがあった。鹿島の不屈さと強靭さが、それを物語っていた。
リバプールにおけるヘンダーソンとミルナーの重要性のまとめ
2021-22シーズンのカラバオ杯決勝、リバプールはPK戦の末にチェルシーを撃破し、優勝を果たした。120分を戦い抜き、PK戦も両チーム合わせて22人がキッカーを務める、長時間の激闘となったが、準優勝となったチェルシーがメダルを授与されていた際に、ヘンダーソンとミルナーは対戦相手を出迎え、1人ずつ握手を交わして健闘を称えていた。優勝してチームメートと歓喜に湧く貴重な時間を割いてでも、2人は対戦相手へのリスペクトを行動で示していた。
ヘンダーソンとミルナーは、決して才能に恵まれている選手ではなく、テクニックやスピード、得点力を武器にする選手でもないが、それでも世界トップクラスのクラブで長年にわたって活躍している背景には、誰よりも徹底されたプロフェッショナリズムがあった。
※当記事のインタビューは2022年6月5日に実施したものです。
城福浩のプロフィール
U-17日本代表 監督…AFC U-17選手権優勝
FC東京 監督…ナビスコ杯優勝
ヴァンフォーレ甲府 監督…J2優勝
サンフレッチェ広島 監督…J1リーグ2位
東京ヴェルディ 監督…2022年〜現在