マンチェスター・シティがドルトムントのノルウェー代表FWアーリング・ブラウト・ハーランドの獲得をクラブ公式サイトで発表した。ドルトムントは契約解除金を6000万ユーロ(約82億円)に設定していたが、シティが満額を支払うことで移籍が実現した。ハーランドは世界最高の選手となるべく、満を持してビッグクラブへのステップアップ。シティにとっては、長年追い求めた待望のストライカー獲得となった。数々のJクラブで指揮してきた城福浩氏は、シティのハーランド加入について、「5つの注目ポイント」を挙げている。
マンCは「流動的な偽9番システムで勝ち進んできた」
シティは現在、プレミアリーグで首位を走っており(2022年5月現在)、得点数がリーグ最多得点、失点数もリーグ最少失点と、無類の強さでリーグ連覇に迫っている。元アルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロの退団後は、ストライカーをピッチに配置しないシステムを採用しているが、攻撃陣の破壊力は世界屈指だ。
シティは近年、流動的な偽9番システムを導入し、前線にチャンスメーカーを揃えて決定機を多く生み出すサッカーで勝ち進んできた。接戦では決定力に欠ける局面も見受けられることから、ストライカーの必要性も問われてきたが、ストライカータイプを置かなかったからこそ、圧倒的にチャンスを生み出すことができているとも言える。決定機を外す機会があるとしても、決定機を大量に演出して4,5点を決める試合も多い。純然たるストライカーを置いていたら、今より決定力は高まるかもしれないが、今ほどチャンスを生み出せるとは限らない。
マンCがレアルに見せつけられた”驚異的な決定力”
一方、UEFAチャンピオンズリーグではレアル・マドリードとの準決勝第1戦で勝利したものの、第2戦で逆転負けを喫し、悲願の欧州制覇はまたもお預けとなった。両試合では内容で圧倒したものの、レアル・マドリードの圧巻の決定力を前に後塵を拝した。
シティの攻撃力は現時点でもトップレベルである一方、CL準決勝のレアル戦を挙げると、試合はシティが主導権を握り、より多くの決定機を生み出したにも関わらず、レアルの驚異的な決定力に屈する格好となった。少なからず、CLというトーナメント形式の戦いでは、チャンスを逃さないハイレベルなストライカーの存在の重要性を改めて痛感したのではないだろうか。
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ハーランドのマンC加入は「とてつもない補強」だが‥
ハーランドは2020年1月にドルトムントに加入して以降、公式戦88試合85ゴール(2022年5月現在)を記録しており、21歳ながら世界最高のストライカーの1人として大きな飛躍を遂げている。世界最高の選手を目指すハーランド、ストライカーを渇望していたシティにとって、互いにWin-Winの移籍劇となったわけだが、城福浩氏はシティのハーランド加入について見解を述べている。
ハーランドのシティ加入は、シンプルに考えればとてつもない補強。現時点で世界最高峰のチームでありながら、頂点に立つためのラストピースがいよいよ埋まったような見方もできるだろう。ただ、サッカーはテレビゲームのようにはいかない。世界屈指のストライカーのシティ加入にあたり、5つの注目ポイントがあると考えている。
ハーランドのマンC加入における「5つの注目ポイント」
献身性
ペップは、1トップのポジションにもハードワークを要求する。攻撃時に最前線(一番ボールに近い選手)がスイッチを入れないと、チーム全体が前がかりになれない。即時奪回からのショートカウンターも武器としているシティにとっては必須のタスク。今は典型的な9番がいないからこそ、それを出来る選手が試合に出る、という競争もさせている。だからジェズスが負傷から復帰した時も、簡単には試合に出れなかったし、誰がやっても即時奪回のスイッチ役を意識していた。ハーランドが世界最高峰のプレミアリーグで、これをハイテンションでやり続けることができるのかどうか。ペップはやらせると思うが、身体が大きい分、フォーデンやジェズスほど連続性を保つのは簡単ではない。もしやり切れないまま起用し続けると、他の選手の高いテンションを保てないリスクはあるかもしれない。
年俸
今のシティはデ・ブライネやベルナルド・シウバ、ロドリやカンセロが主力を務めているが、もしも彼らのようなコアな選手を大きく上回る年俸をハーランドが受け取るとなると、自ずとチームメイトの心情にも微妙な変化が生じる可能性はある。それが意味するものは、最高スキル軍団がハードワークするという図式を崩しかねない影響だ。従い開幕だけではなく来シーズン通して、要求する・起用する基準をチーム全体に改めて知らしめないといけない。ペップはこれを分かっているはず。この側面に関しては、CL準決勝でベンゼマという絶対的ストライカーに2試合とも得点を奪われて敗戦した体験が、プラスに働く可能性がある。シティが勝っていたら、上記の類いのマネジメントはより一層難しくなる。「我々は、典型的なストライカーなしで勝ったのに」ということになるからだ。だが、シティは決定機の数で上回っていたにも関わらず、相手のストライカーに決められて敗退した事実を突きつけられている。これはハーランド加入に伴うマネジメントという側面では図らずもプラスに働く出来事となった。
※現地メディアによると、ハーランドの年俸は、チーム内最高給であるベルギー代表MFケヴィン・デ・ブライネの約32億円を遥かに凌駕する、約43億円の契約に至ったとのこと。この金額は、プレミアリーグ最高給であるマンチェスター・ユナイテッドのポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドと同額となっている。
ゼロトップ
現代サッカーは二極化している。ストライカータイプを置くやり方、そして、ゼロトップのように見えるタイプを前線に置くやり方。前者はユベントス、バイエルン、マンチェスター・ユナイテッド。ドルトムントもハーランドを最前線に置く前者のやり方を取り入れていた。後者はシティ、リバプール、(ルカク不在時の)チェルシーがわかりやすい例になる。レアルのベンゼマやトッテナムのハリー・ケインは両方できる稀有な選手だ。特にシティのゼロトップは、中盤で数的優位を作る、中盤エリアで相手CBを無力化する、そして掴まれないままゴール前に入っていく、という利点を活かし切っている。ハーランドが入ることで、どのようなバランスになるのか。少なくとも彼を起用するのなら、今シーズンのようなゼロトップの良さを維持するための修正が必要になる。周りがどう合わせていくか、それとも彼がシティのスタイルにアジャストするのを待つのか。完全に適応するのは簡単ではないだろうから、少々時間を要するかもしれない。
クロスの種類
今のシティは流れの中では高さで勝負していない。ポケットを取ってGKとDFの間、バックパスをワンタッチクロスのタイミングでゴール前に入っていく、この2種類を多用している。これに高さが加わることでプラスになる部分は間違いなくある。その一方で、上記2種類で徹底して攻めるという(クロッサーと中の入りの)意思統一が少し揺らぐ可能性は否定できない。そこをどう合わせていくのかは重要になってくるが、相手にとって脅威になることは間違いない。
ソロのスピード
スターリング、マフレズ、フォーデンはスピードのある選手たちだが、彼らはボールを持った時ほどより持ち味が出る。もちろんランニングスピードもあるが、それは飛び出すタイミングも素晴らしいから。ハーランドは、タイミングが多少合わなくても、フィフティフィフティのボールでも、スペースがあれば単純な走りが速く強いので、先にボールに触り起点になることで全体が一気に前向きになることができる。プレスをかけられた時にGKや最終ラインからのロングフィードによるカウンターが、以前より増える可能性があるということだ。これは相手にとってみたら厄介だ。奪いにいかないと面白いように回され崩される、奪いにいったらいったで一発で裏返されるという難しい状況に陥るからだ。
ハーランドのマンC加入に関するまとめ
今夏の移籍市場で最注目株だったハーランドは、数々のビッグクラブから関心を寄せられる中、シティへの移籍が決定した。リーグ連覇が目前に迫っているシティは、近年は偽9番を置くサッカーで圧倒的な強さを披露してきたが、ハーランド加入により、これまでのスタイルに変化が生じることになる。ハーランドがシティに適応する上で、城福浩氏は、献身性・年俸・ゼロトップ・クロスの種類・ソロのスピード、という5つの注目ポイントが鍵となると指摘した。
城福浩のプロフィール
U-17日本代表 監督…AFC U-17選手権優勝
FC東京 監督…ナビスコ杯優勝
ヴァンフォーレ甲府 監督…J2優勝
サンフレッチェ広島 監督…J1リーグ2位
東京ヴェルディ 監督…2022年〜現在