中村俊輔とセルティックの伝説 英国在住の記者が明かす“現地のリアル”

元日本代表MF中村俊輔は、言うまでもなく日本サッカー界の歴史に名を残す名手だ。その黄金の左足で数々のドラマを生み出してきた。しかし、日本と同等、もしくはそれ以上に、中村俊輔が伝説的な存在となっている地域がある。スコットランドのグラスゴーだ。20年以上にわたってプレミアリーグを中心に現地取材している英国在住ジャーナリストの森昌利が、グラスゴーにおける中村俊輔という存在の偉大さを振り返っている。

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セルティックファンにおける中村俊輔は「He’s my God」

44歳となった中村俊輔は2022年シーズンをもって26年間の現役生活にピリオドを打った。横浜FMでJリーグ年間MVPを2度も受賞している一方、2005年から4年間所属したセルティックで、スコティッシュ・プレミアリーグ年間MVPにも輝いている。スコットランドでも、中村俊輔はトップを極めた存在だった。

森 昌利

俊輔選手とは何度か談話をさせてもらったが、サッカーに対してのコメントは、非常に哲学的であり、実際にピッチに立っている人間のスピリチュアルな部分まで話してくれる。俊輔ファンになる記者も多かったくらいだから。英国在住のジャーナリストの立場として、俊輔選手に対する現地のリアルな声が届く。自宅の近くにあるパブのオーナーがスコットランド人で、私が日本人であることを知っていたから、「実はフットボールライターなんだ」と明かしたら、「まさかお前、シュンスケと会ったことあるんじゃないだろうな?」と言われて。「あるよ」と答えたら、「頼むから今度サインをもらってきてくれ」とお願いされたり(笑)「He’s my God(彼は私にとって神様だ)」と熱く語っていたからね。

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中村俊輔がセルティックで示した“レジェンド”の定義

森昌利氏は当時セルティック・パークにも足を運んでおり、中村俊輔を取材する機会も何度かあったという。そして、現地に住んでいるからこそ、スコットランド人にとって中村俊輔がいかに特別な存在であるかを実感していた。

森 昌利

日本でも「セルティックで俊輔選手がこんなゴールを決めました!」という報道がたくさん出ていたけれど、実際にグラスゴーに住む人たちの忠誠心までは伝え切れていないだろう。タクシーの運転手も、自分が日本人だと話すと「シュンスケはどうしてる!?」と聞いてくるしね。「彼のFKは本当に素晴らしかった」と、まるで昨日のことのように熱く語ってくる。“レジェンド”の定義は、人々がその存在を絶え間なく語り続けることだと思うんだ。俊輔選手は、グラスゴーにとってまさしくそのような存在だよ。

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現地からの“本気の問い合わせ”は「中村俊輔しかいない」

英国在住の日本人記者はそれほど多いわけではないため、英国で活躍する日本人選手については、森昌利氏の元へ地元メディアや地元記者から問い合わせが届くことも少なくない。その中でも、中村俊輔に関する問い合わせは、他の日本人選手とは比較にならないほどの際立った熱量だったという。

森 昌利

英国紙「ザ・サン」のスコットランド版の記者が、私に頻繁に電話してきて、俊輔選手のことを聞いてきていたしね。地元記者があれほどしつこいくらいに色々聞いてきた選手は、ユナイテッドの香川選手やレスターの岡崎選手を含めても、これまでに俊輔選手しかいないね。俊輔選手の試合後のコメントを紹介するために、スコットランドのBBCに出演させてもらったことがあったくらいだから。

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“中村俊輔伝説”の背景にスコットランドとイングランドの歴史

中村俊輔と言えば、代名詞なのが芸術的なFKだろう。とりわけ象徴的なのは、2016-17シーズンに行われたUEFAチャンピオンズリーグ。対マンチェスター・ユナイテッドのホーム戦とアウェイ戦でそれぞれ記録した2発の直接FK弾だ。

森 昌利

欧州レベルで考えても、俊輔選手のFKは、UEFAが公式でベッカムら世界トッププレーヤーの中からベストFKに選んでいたくらいだから、実際に世界の頂点を極めたレベルと言っていい。ユナイテッド相手に決めた2つのFKに関しては、スコットランドとイングランドという歴史的にも複雑な関係性の中で、優勝候補でもあるイングランドの名門に強烈なFKを叩き込んだというのも、俊輔選手がスコットランドにおいて伝説的な存在となった背景の1つになるだろうね。

中村俊輔はセルティックで「50年後も語り継がれている」

スコットランドとイングランドは合併問題など歴史的な背景もあり、サッカー界でも宿敵関係にある。そんな中で、イングランド屈指の名門ユナイテッドを面食らわせたFK弾は、スコットランドでは単なるゴール以上の価値があったことは想像に難くない。

森 昌利

現在は古橋選手もセルティックでエースとして活躍しているけれど、俊輔選手は別格の存在なんだよね。ユナイテッド戦なんて、あのファン・デル・サールを相手に2戦連続で、しかも同じコースに決めているからね。1発目は少し油断していたのかもしれないけれど、2発目に関しては、世界最高峰の守護神が入念に警戒した中で決めたんだから。セルティックファンの中では、50年後も、もしかしたら100年後も語り継がれているんじゃないかなと思うね。

中村俊輔とセルティックの伝説のまとめ

2022年シーズンをもって26年間の現役生活に終止符を打った中村俊輔。最も印象的なキャリアの1つがセルティック時代となるが、リーグ年間MVPの受賞はもちろん、世界的名門ユナイテッドを相手に決めた2発の直接FK弾は、スコットランドで中村俊輔を文字通り“伝説”の存在にした。英国在住ジャーナリストの森昌利氏は、中村俊輔はファンや記者から愛される人物であり、これからも語り継がれる伝説と振り返っていた。

当記事のインタビュイー

森昌利のプロフィール

1962年3月24日生。24歳からフリーランスのライターとして活動し、31歳で渡英。当地で英国人女性と結婚し、定住。ロンドン市内の出版社勤務を経て、36歳で現地のフリーランスとなり、サッカー記事の執筆にも着手。

2001年に元日本代表FW西澤明訓がボルトンに加入したことを受け、報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。以降、20年以上に渡り、世界で最先端を走る“サッカーの母国”イングランドサッカーのリアリティーを現地から伝えている。

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ジョータツ

「Off The Ball」編集長。 大手サッカー専門メディアに過去6年配属。 在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。 「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。 人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。 趣味はサウナ。

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