バルセロナ時代は「シャビの後継者」とも称されたアルトゥールは、ユベントス、リバプールといったビッグクラブを渡り歩き、2023年夏にイタリアのフィオレンティーナにレンタル移籍をした。今回は、そんなアルトゥールのプレースタイルや人柄について解説していく。
生年月日 | 1996年8月12日 |
国籍 | ブラジル |
所属クラブ | ACFフィオレンティーナ |
ポジション | MF |
身長 | 171cm |
利き足 | 右足 |
経歴 | グレミオFBPA→バルセロナFC→ユベントスFC→リバプールFC(loan)→ACFフィオレンティーナ(loan) |
アルトゥールの主戦場はボランチやインサイドハーフだが、彼の強みは「ボールキープ力」と「パス」にある。自らスペースに動いてボールをもらう意識が高く、相手からのプレッシャーが強くなっても素早いターンから躱す。「プレス耐性」とも呼ばれる能力が非常に高く、狭いスペースで体をよじって相手選手を遠ざけ、安全圏を確保する。
そして、守備のラインを崩壊させるキラーパスを味方に向けて正確に出す。アルトゥールのアシスト数は多くないが、これは彼のパスが「ラストパス」ではなく「守備を機能不全にする」ために出されていることを示している。数字には表れないが、「攻撃のリズムを生む」という、チームになくてはならない役割を担っている。
一方、アルトゥールはボールを受けるために動き回ることで、本来なら使えたスペースや選手を使えなくしてしまうこともケースも目立つ。これはゲームメイクを司どる彼のスタイルの“功罪と罪”とも言えるが、この部分において上手くプレーしていたのが、シャビなのだ。「中盤の周りとの兼ね合い」は更に彼が成長できるポイントと言える。
また、アルトゥールの守備能力には、疑問符をつけられることが多い。バルセロナにユベントスと、これまでビッグクラブに在籍していたこともあり、主導権を握られる時間自体は全体を通して少ないが、それでも守備のポジショニングや強度は(171cmという身長もあるが)まだトップクラスには到達しているとは言えない。逆にいえば、守備さえ上達すれば、カンテのような役割も彼に任せる事ができ、チームに大きな利益をもたらすことができるようになるだろう。
まずは、コパ・アメリカ2019決勝のアシストを紹介する。
中盤での味方の守備からフリーでボールを受けると、即座に前へ進み、ゴール前で3人を引き付けた所で横にいたジェズスへパス。ジェズスのマークについていたDFの意識もアルトゥールに向いていたため対応が遅れ、ブラジルの勝ち越し弾が決まった。
もう1つは、2018-19シーズンのコパ・デル・レイから選出。
【引用:Barca TV】
中盤でボールを保持していたアルトゥールは前線で動いたラキティッチを見逃さずスルーパスを供給。1つのパスで相手選手8人を置き去りにしてみせた。
ブラジルのクラブユースで育ったアルトゥールは、2015年のユース大会で活躍。当時所属していたブラジル名門グレミオの監督の目にとまり、昇格を果たす。同年の州選手権で初出場を達成したが、その後2年間は出場機会がほとんど無かった。2017年、ついにアルトゥールはレギュラーに定着。ある試合ではパス成功率が40本中40本成功の100%を記録するなど印象的な活躍を見せると、そのプレースタイルがイニエスタといった名選手に例えられて紹介され、欧州から注目を浴びるようになる。
2018年3月、バルセロナへの移籍に合意する。移籍金は3100万ユーロ(約40億3千万円)で、6年間の契約を結んだ。スペインに活躍の場を移した彼はプレシーズンからサポーターをその才能で虜にする。シーズン開始直後は出場機会に恵まれなかったが、CLの敵地トッテナム戦で先発に起用されると、メッシに「シャビを思い出すよ」と称賛されるほどの見事な活躍を見せ、勝利に貢献。「シャビの後継者」としてその名を世界に響かせた。この試合をきっかけにレギュラーへ定着することとなる。
しかし、ここからアルトゥールは厳しい評価を徐々につけられることとなる。期待されていた「メッシの相棒」の役割も満足するレベルにはなく、2年間経ってもチームの軸になることはできなかった。さらに夜遊び等のプロ意識に欠けた行為も批判の的となる。結局2020年6月、ユベントスのピャニッチとの実質的なトレードでシーズン終了後の移籍が決定。バルセロナからの退団は望んでいなかった彼は帰国拒否や飲酒運転といったトラブルを連発し、後味の悪い別れとなった。
移籍したユベントスでもレギュラーとして出場したが、「シャビの後継者」と称賛されていたようなプレーは減り、以前のような高い評価を得ることは少なくなっていた。2022-23シーズン、彼は遂にアッレグリ監督の構想外になり移籍の噂が飛び交ったが、2022年夏の移籍市場最終日にリバプールへローンで電撃移籍を果たした。この契約に買取オプションは付与されることがなかったが、ユルゲン・クロップ監督のもと再び栄光の道に戻れるのか、期待が集まっている。
リバプールでの活躍が期待されたアルトゥールであったが、トップチームでは出場時間13分の1試合のみでシーズンを終了し、チームに貢献することは出来なかった。2023年7月22日にイタリアのフィオレンティーナに買い取りOP付きの1年間の期限付き移籍を発表した。
シャビやイニエスタに例えられているアルトゥールは、実際に彼ら2人をよく見ていたという。パスを出すタイミングや正確なプレー選択、そしてボールを受けた後のターンを彼はバルセロナの試合映像から一心不乱に学習した。家の壁を使ってイニエスタのターンを実際に真似していたとも語っている。
またグレミオ時代、名門クラブ同士の獲得争いが白熱するとメディアは報じていたが、これに反してバルセロナがあっさりと獲得する。これも彼の幼少期の憧れが影響している。バルセロナの交渉担当者がブラジルで彼に接触したタイミングで、アルトゥールは「大好きなクラブへの移籍」を即決していたという。
2022-23シーズン、リバプールは開幕から中盤の負傷者が続出する野戦病院状態となっており、クロップ監督は補強を行わない方針を公言していたが、2022年8月31日に開催されたプレミアリーグ第4節ニューカッスル戦で主将のイングランド代表MFジョーダン・ヘンダーソンが負傷離脱した事態を受け、急遽アルトゥールの代理人へコンタクトを測った。1回目の電話で、アルトゥールへリバプールへの移籍を快諾。獲得の打診から合意に至るまで、わずか数時間でまとまる急転直下の移籍劇となった。
「シャビの後継者」と評されたかつての才能は、近年日の目を浴びることが少なくなってきているが、卓越したテクニックとパススキルはいまだ健在なはず。フィオレンティーナへ移籍した2023-24シーズンでの復活が期待される。