今季のプレミアリーグはマンチェスター・シティの3連覇、ニューカッスルのトップ4入り、リバプールやトッテナム、チェルシーの大不振など、トピックスの多いシーズンとなった。
今回の記事では、この22-23シーズンのプレミアリーグにおいて、シーズン前には想像が難しかったような、予想以上の活躍、成長を見せた選手に注目していく。今期、サプライズと言えるシーズンを送った選手をピックアップし、サプライズイレブンとして11名を選出し、紹介していく。
(text by Tate Masa)
プレミアリーグ2022-23の“サプライズイレブン”
今回のサプライズイレブンでは、ベストイレブンのようにポジションごとにサプライズ選手を選出し、フォーメーションを組んでいくこととする。今回採用したシステムは、とある選手の選出があるため3-2-4-1とした。このシステムとなった経緯は、そのとある選手の紹介の際に述べていく。
GK ・DF部門
GKエミリアーノ・マルティネス(アストン・ヴィラ)
今回GKでサプライズ選手として選ばれたのは、アストン・ヴィラのアルゼンチン代表GKエミリアーノ・マルティネスだ。アストン・ヴィラはUEFAヨーロッパカンファレンスリーグ出場圏内の7位でフィニッシュしており、その高いセービング能力でチームの躍進に貢献している。
また、今シーズンはリーグ期間中にカタールにてFIFAワールドカップが開催されたが、その大会で優勝したアルゼンチンの正GKとして君臨していたことも今回の選出理由の一つである。そして何より、筆者がエミリアーノ・マルティネスで別の意味でのサプライズだったのは、カタールW杯の優勝セレモニーでの例の“股間トロフィーパフォーマンス”である。
その行動が問題視され、リーグ再開後の2試合は出場せず、「愚かだった。誇れることではない」と反省の言葉を口にしていたが、2023年3月24日に行われたパナマ代表との親善試合のイベントにて、トロフィーのレプリカを使い、またもや例の股間パフォーマンスを行った。ある意味、これ以上ない“サプライズ”な行動ではあるが、この行動によりエミリアーノ・マルティネスのメンタルの強さが垣間見え、GKにはこのくらいの気持ちの強さが必要なのだと改めて考えさせられたのである。
DFウィリアム・サリバ(アーセナル)
今シーズン優勝こそ逃したものの、最終節を残して2位の順位を確定させているアーセナルの守備陣の中心選手だったのがフランス代表DFウィリアム・サリバだ。2019年の夏にアーセナルに加入したサリバだが、昨シーズンまではサンテティエンヌ、ニース、マルセイユと母国であるフランスのクラブへのレンタルに送り出されるシーズンを送っていたが、今シーズン遂にアーセナルのスカッドに加えられるとその能力を存分に発揮した。
サリバの強みは高いレベルでスピードとパワーを兼ね備えている点である。素早い出足で相手FWへプレッシャーをかけ、攻撃の芽を摘むプレーや、高い打点でのヘディングでロングフィードをしっかり跳ね返すプレーは、DFラインを高く設定し、ポゼッションに重きを置くチームのスタイルにフィットしている。プレミア初挑戦で不安に思っていたファンの心を見事に吹き飛ばしたサリバは今シーズンのサプライズなCBの一人だったと言えよう。
DFマヌエル・アカンジ(マンチェスター・シティ)
今シーズンの夏にドイツのドルトムントからマンチェスター・シティに加入したスイス代表マヌエル・アカンジも今シーズンにサプライズな活躍を見せたCBの一人だ。ドルトムント時代も高水準なスピードやパワーといった、高い身体能力を活かしたプレーで活躍しており、スタメン級の選手だったが、圧倒的な存在では無かったと言える。シティがアカンジを獲得した際に支払った金額も24億と高い移籍金を要してはおらず、トップクラスのCBを多く擁するチームで出場機会をしっかり得られるのかは不透明であった。
しかし、そんなことは杞憂だったと移籍直後から思わせられた。チームを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督の戦術を理解する能力に長けており、シティ移籍後初出場となった2022年9月17日のウルヴァー・ハンプトン戦以降、これまでにもチームにいたかのようなフィットを見せ、ほとんどの試合でスタメン出場した。昨シーズンまで出場が多かったスペイン代表DFアイメリック・ラポルトよりも序列が高い状態で試合に出続けた。
DFリサンドロ・マルティネス(マンチェスター・ユナイテッド)
マンチェスター・ユナイテッドに今シーズンから監督となったエリック・テン・ハグが、アヤックスで教え子であったアルゼンチン代表リサンドロ・マルティネスを連れてきた当初は、リサンドロ・マルティネスの175cmの身長に対して「プレミアのCBでこの身長でやっていけるのか?」といった、懐疑的な見解を持つ人は少なくなかった。しかし、リサンドロ・マルティネスは試合に出場するとすぐに、プレーでこのような意見を吹き飛ばし、CBは身長だけではないことを証明した。
自分よりフィジカル的に優れた相手FWに対しても、読みとポジショニングに優れたプレーで優位性を作り出し、空中戦で競り勝って見せる。また、攻撃時のプレーセンスを持っており、ボールポゼッション時のポジショニングや、効果的なパスによって、ビルドアップにアクセントを加えることが出来る。
カタールW杯のアルゼンチン代表の優勝に貢献したことも今シーズンのサプライズ選手に選出された理由の一つである。
MF部門
DFジョン・ストーンズ(マンチェスター・シティ)
マンチェスター・シティのジョン・ストーンズの選出によって、今回のサプライズイレブンのシステムにて3-2-4-1を採用した。まずサプライズだったのはグアルディオラ監督のストーンズの起用法である。ボールポゼッション時にはアンカーを務めるスペイン代表MFロドリの横にポジショニングし、3人のCBからのパスの経由地となり、前線にボールを供給する役割を果たす。
ネガティブトランジション時には、これまでアンカーの脇を狙っていた相手からすると、ストーンズがその空間をすでに埋めているためそこを狙えない状況になっている。そして、相手がボールを持ち、撤退守備をする際には、ストーンズは3人のCBの列に吸収され、4枚のCBを並べる固い守備陣形を引くことになる。この「偽CB」とも呼ばれるこのシステムは、ストーンズの足元の技術と戦術理解の高さが生み出した、最先端の戦術となっている。
MFブルーノ・ギマランイス(ニューカッスル)
ニューカッスルはUEFAチャンピオンズリーグ出場圏内の4位以内を確定させ、チームの大躍進を支えた男こそが、ブラジル代表ブルーノ・ギマランイスである。中盤の底からゲームをコントロールしたり、前にスペースがある場合にはボールを前線に持ち運んだり、前線へのスルーパスにてチャンスを演出したりと、MFが必要な能力を高いレベルで持ち合わせており、チームに欠かせない中心選手として大活躍を見せた。
辛口で知られる元イングランド代表DFのジェイミー・キャラガー氏も「中盤の選手はポジションによって6番、8番、10番と呼ばれる。そして、彼はそのすべての役割をこなせる選手だ」「彼の持ち運びや創造性、スルーパスなどのスタッツを見てみると、中盤として完全な選手であることを示している。これが、この中盤の選手が(ニューカッスルのある)タインサイドだけでなく、各地で興奮を呼んでいる理由だ」と評価している。
実際にギマランイスが出場している試合と怪我にて出場していない試合を比較すると、出場31試合で19勝9分3敗と勝率は61.2%なのに対し、出場していない6試合では4分2敗と勝利した試合が無かった。これが、ギマランイスがいる、いないではチームの質が変わってしまうという証拠だ。今回のサプライズベストイレブンの中で、MVPを選ぶとしたら、彼になるだろう。
MFジョアン・パリーニャ(フラム)
今シーズンからプレミアリーグに昇格し、初年度から10位フィニッシュという順位で危なげなく残留を決めたフラムにおいて、特筆した活躍を見せたのが、ポルトガル代表ジョアン・パリーニャである。イエローカードの累積警告による出場停止の試合以外の全ての試合でスタメン出場し、そのほとんどでフル出場した。
主に守備的MFのポジションで出場するパリーニャは、高い強度でのタックルやディエルといった高い守備能力を発揮し、チームの心臓として働き続けた。
この今シーズンの活躍によって、プレミアのビッグクラブが彼に注目しており、獲得には争奪戦になるのでは無いかと言われているほど、プレミア挑戦初年度のパリーニャの活躍は見事なものであった。
MFアレクシス・マック・アリスター(ブライトン)
所属するブライトンの来季のUEFAヨーロッパリーグ出場圏内獲得と、アルゼンチン代表をカタールW杯優勝に導いた立役者がアレクシス・マック・アリスターである。トップ下・インサイドハーフ・ボランチと中盤のポジションであればどこでもこなすことが出来るユーティリティ性と、ゲームメイク能力、プレースキックの高い精度、無尽蔵のスタミナを活かしたハードワークと、マック・アリスターの強みを挙げるとキリが無い。
ブライトンもアルゼンチン代表も彼がいなければこの結果となったかどうかはわからない。それほど、マック・アリスターのチームへの貢献度は高く、今シーズンのサプライズ選手の筆頭であると言えよう。
FW部門
MF三笘薫(ブライトン)
今回のサプライズイレブンにこの男は欠かせない。なんと言っても三笘薫の選出理由は、その卓越したドリブルの能力で、数々の相手DFを抜き去り、チャンスを演出し続け、ブライトンの攻撃の中心選手として大きな活躍を見せ、プレミアリーグの注目選手に一気に躍り出たことだ。三笘にけちょんけちょんにされていくプレミアリーグのDFを見ていると日本人としての誇りを感じる瞬間でもあった。ブライトンの前監督であるグレアム・ポッター時代には途中出場が多かったが、2022年9月18日にロベルト・デ・ゼルビ監督が就任してからは信頼を得てスタメン出場が増え、2022年12月26日のサウサンプトン戦以降は全ての試合でスタメン出場している。37節終了時点で7ゴール6アシストをマークしており、元日本代表の香川真司と岡崎慎司が記録していた6ゴールを上回り、日本人のプレミアリーグ最多得点記録を達成した。
ビッグクラブからも注目される存在となった三笘だが、来季もブライトンに残留することになれば、チームはUEFAヨーロッパリーグに出場するため、ヨーロッパのコンペティションにて、そのドリブルでチームに貢献する姿を思う存分見せてほしいと期待している。
MFミゲル・アルミロン(ニューカッスル)
ギマランイスと共に、ニューカッスルのプレミア3位の立役者となったのはパラグアイ代表ミゲル・アルミロンである。怪我による離脱もあったが、37節終了時点で33試合に出場し、11ゴールの活躍を見せた。エディ・ハウ監督が就任すると右ウイングのファーストチョイスとなり、そのポテンシャルを発揮。特に前半戦のパフォーマンスが素晴らしく、2022年10月1日のフラム戦から、12月26日のレスター戦までの9試合で8ゴールをマークし、10月のプレミア月間最優秀選手賞を受賞。チームの躍進に貢献した。後半戦はあまりゴールが無かったものの、アルミロンなしではチャンピオンズリーグ出場獲得は難しかったであろうと言える。
昨シーズンには放出候補とまで言われていたアルミロンの大活躍は最大級のサプライズであった。三笘のウイングの相棒として、右ウイングに配置するのはアルミロンが最適解と言えるだろう。
FWオリー・ワトキンス(アストン・ヴィラ)
アストン・ヴィラの躍進において、エミリアーノ・マルティネスが守備の立役者だとすると、攻撃の立役者となったのはイングランド代表オリー・ワトキンスだ。37節終了時点で、36試合出場で14ゴール6アシストと、高いスタッツを誇っており、アストン・ヴィラの攻撃の中心として活躍。2023年1月21日のサウサンプトン戦から2月25日のエヴァートン戦まで5試合連続ゴールを決め、4月1日のチェルシー戦から4月15日のニューカッスル戦まで4試合連続ゴールを決めており、元々高かった得点能力に拍車がかかった。
この活躍によりプレミアのビッグクラブからの関心も増えてくるであろう。また、イングランド代表への定着も期待したいところである。
プレミアリーグ2022-23の“サプライズイレブン”のまとめ
今回の22-23シーズンにおけるプレミアリーグ、サプライズイレブンは以下のフォーメーションで選出させていただいた。
筆者が特に印象的だったのは、やはり、マンチェスター・シティのジョン・ストーンズの起用法である。グアルディオラ監督の戦術はこれまでも、バルセロナ監督時代に起用した、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシの「0トップ」システムや、バイエルン・ミュンヘン監督時代に元ドイツ代表DFフィリップ・ラームとオーストリア代表DFダビド・アラバの両サイドバックをボールポセッション時にアンカー横の内側に絞らせるフォーメーションを取る、「偽サイドバック」など、時代を先駆ける最先端なものが多い。そのグアルディオラがまたもや今回の「偽センターバック」という新たなシステムを構築し、実際にフィールドで実践し、成功していることには感銘を受けるばかりである。
また、日本人としては、三笘薫が今までの日本人ウィンガーでは出来なかった、圧倒的なドリブル技術で相手DFをキリキリマイにしている姿にも嬉しく思う。来シーズンはさらに三笘のドリブルが対策され、より警戒される存在になるだろうが、そんな中でもその対策を超えていくドリブルを見せてほしいと期待している。