なぜブラジル代表は勝てなくなったのか? 小倉勉の見解「日本人選手も…」

ブラジルが勝てなくなった要因
【引用:The Telegraph公式サイト & Off The Ball編集部】

カタールW杯も、いよいよフィナーレを迎えようとしている。モロッコ代表のベスト4進出、日本代表のドイツ・スペイン撃破など、サプライズの多い大会となっている中、優勝候補筆頭のブラジル代表は前回大会と同様、ベスト8で敗退することになった。

2002年の日韓大会以来、W杯優勝から遠のいている“サッカー王国”は、一体なぜ結果を残せなくなってきているのか?2010年の南アフリカ大会で、日本代表のコーチとしてW杯本大会に参加した小倉勉氏(現東京ヴェルディコーチ)が見解を述べている。

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ブラジルに対しての“リスペクト”の度合いの変化

※当記事のインタビューは2022年11月15日に実施したものです。

ブラジルはW杯で最多となる5回の優勝を誇っているが、かれこれ20年も優勝はおろか決勝の舞台にも進めていない。小倉勉氏は、その背景に、各国の選手が抱くブラジルに対しての“リスペクト”の度合いの変化を指摘している。

小倉 勉

これまでW杯において、ブラジル代表は特別な存在だった。しかし、ここ数大会のW杯で、対戦相手がブラジルに対してリスペクトしすぎるということがなくなってきている。現代サッカーでは、CLやELに出場するクラブで、ブラジル人選手がほぼほぼプレーしている。となると、一緒にプレーしているチームメイトや、定期的に戦う相手選手がいるわけで、「ブラジル人はここが凄いけど、ここが弱点だ」という部分も、各国の選手がある程度わかってきている。そうなると、過剰なリスペクトはなくなってくる。

日本人選手がブンデスリーガで培ったドイツに対する自信

これはブラジルだけの問題ではない。グループリーグ初戦で日本はドイツ相手に大金星を飾ったが、ブンデスリーガでプレーしている日本人選手が多いというのも、勝因の1つに挙げられるだろう。

小倉 勉

それこそ、ブンデスリーガでは鎌田・遠藤航・堂安・吉田・板倉を含めた多くの日本人選手が主力としてプレーしていて、チームメイトだったり対戦相手だったりに必ずドイツ代表の選手がいる。そうなると、ドイツ代表に対して「自分たちだってやれる」と、劣等感を抱くことはなくなってくる。久保建英もリーガでプレーしているし、スペイン代表にも同じことが言えるだろう。そういった状況が世界的に起きているので、ブラジルと、あとはアルゼンチンに対する神格的な感情は、もう現代サッカーには残っていないと言っていい。

アジア・アフリカの台頭で欧州・南米と縮んだ差

また、以前は優勝を目指す強豪国がグループリーグで“省エネ”状態で突破し、決勝トーナメントでエンジンを全開にする戦い方で、ベスト4や決勝までコンディションを維持する手法が散見されていたが、現代サッカーではアジア人選手・アフリカ人選手が世界のビッグクラブで主力を張ることも珍しくなくなっているため、欧州国・南米国との差が明確に縮んできている。

小倉 勉

これまでブラジルやアルゼンチンのような強豪国は、グループリーグで適度にメンバーを落としながら戦って、決勝トーナメントで万全な状態で主力を送り出すようなコンディション調整を行っていたりした。でも、ここ数大会では、アジア勢やアフリカ勢の台頭により、そういった調整がほとんどできなくなってきている。特にイレギュラーな大会であるカタールW杯では、強豪国が足元をすくわれる可能性は大いにあるので、一筋縄ではいかないだろう。

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短期決戦で鍵を握るのは「スローインとゴールキック」

一方で、カタールW杯は11〜12月に行われる前例にないイレギュラーな開催であるため、歴代で最も準備期間の少ない大会と言える。それはブラジルを含め、その他の強豪国にとっても例外ではない。そのため、緻密な戦術の落とし込みは難しいこともあって、鍵を握るのはセットプレー、特にスローインとゴールキックが重要となってくる可能性が高いと見解を述べている。

小倉 勉

今大会は例年に比べて、特に準備期間が少ない。そうなると、キーとなってくるのはセットプレー。短期間で細かい戦術の落とし込みは難しいので、デザインされたセットプレー精度をいかに上げることができるか。セットプレーと言うと、PKやCK、FKが思い浮かぶだろうが、それだけではない。近年は、スローインとゴールキックも重要になってきている。そして、スローインとゴールキックに関しては、ルール上、オフサイドがない。これは近代サッカーのトレンドであるハイライン・ハイプレスを打開する重要なファクターと言える。

セットプレーの準備が「強豪国相手にサプライズを起こす」

スローインとゴールキックは、言わばオフサイドの“抜け穴”として、コンパクトな現代サッカーの活路に見出されており、リバプールはスローイン専門のコーチを雇って、戦術の1つに取り入れているほどだ。W杯のような短期決戦では、そういったセットプレーが勝敗を分ける可能性が大いにあり、強豪国に対しての“ジャイアント・キリング”の起因になり得るとしている。

小倉 勉

オフサイドという概念から逸脱したこの2つのセットプレーをいかに活かし切るか。短期決戦においては特に、命運を分けるかもしれない。4年前のW杯段階では、セットプレーのコーチの導入の事例が少なく、スタンダードではなかった。しかし、今大会では、フランスやイングランドといった強豪国は、スローインやゴールキックを含めた各セットプレーに専属コーチをつけているほどだ。逆に、セットプレーの準備を徹底できているチームは、強豪国相手にもサプライズを起こすことのできる大会と言えるかもしれない。

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“サッカー王国”ブラジルが勝てなくなった要因のまとめ

ブラジルは2大会連続でベスト8敗退を強いられており、2022年大会以降、20年間にわたってW杯優勝から遠ざかっているが、その要因としては、対戦国のブラジルに対する“過剰なリスペクト”がなくなってきている状況に加え、アジア・アフリカ勢の台頭により、これまでのように“省エネ”できずに決勝トーナメントを戦わなくてはいけないことによるコンディションと集中力の調整が難しくなってきている点を指摘していた。

また、カタールW杯は11〜12月とイレギュラーな時期に開催され、準備期間が極端に少ない大会となっていることもあり、スローインとゴールキックを含めるセットプレーを入念に取り組んだチームが強豪国にサプライズを起こす可能性が高いと見解を述べていた。FIFAランキングが10位以下のクロアチアとモロッコがベスト4に進出している中、どのチームが頂点に立つことになるのだろうか。

当記事のインタビュイー

小倉勉のプロフィール

U-17日本代表 ヘッドコーチ… AFC U-17選手権優勝

日本代表 コーチ… 南アフリカW杯ベスト16

U-23日本代表 ヘッドコーチ…ロンドン五輪ベスト4

大宮アルディージャ 監督…J1残留

ヴァンフォーレ甲府 ヘッドコーチ…J2優勝

横浜F・マリノス SD…2017年〜2022年

東京ヴェルディ ヘッドコーチ…2022年〜現在

詳しいプロフィールはこちら

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この記事を書いたライター

「Off The Ball」編集長。
大手サッカー専門メディアに過去6年配属。
在籍時は、高校サッカー・J1リーグを主に担当。
「DAZN」企画でドイツ・スペインへの長期出張で現地取材を経験。
人生の転機は、フェルナンド・トーレスの引退会見で直接交わした質疑応答。
趣味はサウナ。

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